※ネタバレがありますのでご注意ください
映画「52ヘルツのクジラたち」は原作小説が2021年の本屋大賞を受賞した話題作ですが、アンさんはなぜ死んだのでしょうか?
どのような登場人物の相関図で人間関係はどうだったのでしょうか?
この映画では家庭で虐待を受ける子供やヤングケアラーを救済する物語が根底にあり、自らではそこから抜けることのできない子供を救い出す過程やその後の日々が描かれています。
その救い手もまた、救済されるべき過去を負っている、というところがこの物語の根幹にあります。
この記事では映画「52ヘルツのクジラたち」でアンさんがなぜ死んだのか、登場人物の相関図を見て背景となる理由を考察してみました。
「52ヘルツのクジラたち」でアンさんはなぜ死んだ?
アンさんは母親に虐待された過去を持ちヤングケアラーの苦しい抑圧された日々を過ごす窮地にあったきなこ(貴瑚)を母親から分離し独立させ、救い出した救世主として登場します。
この映画では親に虐待され悲惨な日々を送る子供たちのことを「52ヘルツのクジラたち」と比喩して表現しています。
52ヘルツというのはクジラの鳴き声の中でも特に高い声のため聴き取れるクジラも数少なく、ここでは声が届く相手がいない、誰にも声が届かない、という意味が込められています。
52ヘルツのクジラであったきなこ(貴瑚)を救い出したアンさんもまた、実は52ヘルツのクジラだったのでした。
後半で明らかになりますが、アンさんは実は体と心の性が合致しないトランスジェンダーであり、子供の頃から傷ついた過去を持つ心の持ち主なのでした。
自ら救い上げたきなこ(貴瑚)に対して湧き上がる特別な感情や貴瑚の恋人の主税の登場などで悩み、苦しんでいたアンさんは最後に自ら命を絶ってしまいました。
アンさんがどのような人間関係の中にいたのか、わかりやすい相関図を作成してみました。
背景となる理由を登場人物の相関図を見て考察!
アンさんは身体は女性として生まれましたが心は男性のため、ジェンダークリニックの治療を受けホルモン剤を注射するなどにより、あごひげを生やしたり現在は表面上は男性です。
日々の生活に疲れ、自殺しようとしていたきなこを間一髪で救出したことからアンさんときなこの関係が始まります。
子供時代に母から虐待され、成長してからは義父の介護をするヤングケアラーとして抑圧された日々を過ごすきなこを母から独立させ、家庭の束縛から解放してあげたのがアンさんでした。
そのアンさんがなぜ自殺してしまったのか、幾つかの理由が挙げられると思います。
きなこを愛してしまったから
晴美とその恋人と一緒に飲みに行くなどきなこと一緒に行動するうちに仲良くなり、きなこから愛の告白を受けますがきなこの幸せを願うなどと言ってはぐらかします。
この時点ですでにきなこを愛してしまっていたのだと思われます。
アンさんはきなこに対して普通に結婚して子供を産み普通の家庭を持って過ごすような幸せな生活を実現してほしいと願っています。
しかし、自分ではそれが肉体的にできないのです。
主税に宛てた遺書の中にも身体ともにきなこを愛してあげることのできない自分が悔しくてならないと記しています。
自分が救った女性に愛されてしまい、自分も本当は愛してしまったのですが、きなこの幸せのために自分がふさわしい相手ではないことに悩み、苦しんだことでしょう。
そして主税を愛するようになったきなこが自分から離反し、ショックを受け傷ついてしまいます。
主税に嫉妬し暴露により破滅させてしまったから
アンさんは主税にはきなこを幸せにする素質が無いことを予期し、きなこには別れるように忠告しますが聞き入れてもらえません。
きなことは別の女性と結婚することが決まった主税の相手側に、きなこと主税の関係を暴露する文書を送り付け、それが原因となり婚約が破断し自身も解雇され主税は社会的に破滅してしまいます。
破滅した主税は自暴自棄になり、きなこに暴力を振るうようになります。
きなこのためを思って起こした行動が結果的にきなこを不幸にしてしまっています。
きなこには主税の愛人として生きる道もあったかと思いますが、それも閉ざされてしまったのです。
きなこを愛するが故に起こした行動できなこを不幸にしてしまい深く苦しんだことでしょう。
戻りたくない子供時代の環境へ戻らなくてはならなくなったから
アンさんは主税の仕返しによりトランスジェンダーであることが母に暴露されてしまいます。
母は主税からアンさんにきなことの関係を婚約者に暴露された被害を知らされ、ひたすら謝罪し、アンさんを故郷に連れて帰ろうとします。
アンさんは傷ついた過去を忘れて東京に出て、生まれ変わることができたのに、主税の一件により東京にいられなくなり、また元に戻らなくてはならなくなってしまいました。
苦しんだ過去にまた戻らなくてはならないことに悩み苦悩したのでしょう。
映画ではアンさんの左腕に多数のリストカットの跡があるようすが映し出されました。
アンさんの辛い過去が想像されるものでした。
アンさんは、こうしたことが原因で東京を発つ前日に自ら命を絶ってしまったのでした。
「52ヘルツのクジラたち」でアンさんの自殺の持つ意味とは
映画「52ヘルツのクジラたち」でのアンさんの自殺は、物語全体のテーマと深く結びついています。
アンさんは長い間、心に抱えていた孤独や痛み、精神的な負担に耐えてきたのでしょう。
物語中、彼は52ヘルツのクジラに自分自身を重ね合わせ、その「誰にも届かない声」に共感していました。
このクジラは、周波数が他のクジラと異なるため、仲間に見つけてもらえない孤独な存在です。
アンさんもまた、周りから孤立し、誰からも理解されないような気持ちを抱えていました。
アンさんの死は、彼が抱えてきた心の重荷や、孤独感、そしてそれに耐えきれなかった結果と見ることができます。
アンさんは女性でありながら自ら救出したきなこを愛してしまったことに悩み苦しみ、また、長年の心の痛みや孤独から解放されたいという思いで、自ら命を絶ったのではないかと解釈されます。
この結末は、現実の社会における家族虐待や孤独、精神的苦痛に対する無理解がもたらす悲劇を象徴しており、物語のテーマである「孤独」と「つながり」の重要性を強調しています。
「52ヘルツのクジラたち」でアンさんはなぜ死んだ?背景となる理由を登場人物の相関図を見て考察!まとめ
映画「52ヘルツのクジラたち」で主要な役割を果たすアンさんがなぜ死んだのか、理由を背景となる人間関係の相関図を描いて考察してみました。
アンさんも実は「52ヘルツのクジラたち」の一人だったのであり、傷ついた過去を持ち自らの体と心の不一致に悩み、苦しんでいたのでした。
救い出したきなこに対して湧き上がる愛情が男性としてのものであったとしても、体が女性である自分ではきなこを幸せにすることができそうにないことに苦しんだことでしょう。
主税の登場がきなこを救いたいアンさんに衝動を誘発し、それがきっかけで二度と会う予定ではなかった母親との再会が起きてしまうのでした。
アンさんがなぜ死んだのか、はこの映画のテーマである「孤独」と「つながり」のもたらす悲劇によるものです。
相関図だけではアンさんの自死は理解しづらいと思いますので映画を観ることをお勧めします。
コメント