※ネタバレを含みますのでご注意ください。
2023年7月14日に10年ぶりに公開された宮崎駿監督の長編アニメーション映画「君たちはどう生きるか」は、2024年3月10日に第96回米国アカデミー賞の長編アニメーション賞を受賞し話題に上っています。
日本の長編アニメーション映画が同賞を受賞するのは同じく宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」以来21年ぶりの快挙です。
「君たちはどう生きるか」は現在もなお国内で上映中(2024年5月時点)で国内の興行収入は3月時点で90億円を突破しています。
ここでは「君たちはどう生きるか」に登場する数々のアイテムの中でもとくに重要な積み木の「石」の役割や意味について考察し、なぜ13個なのかなど映画のポイントとなる点について論じています。
本作は観て単純に面白い、登場キャラクターがとても魅力的、などわかりやすい娯楽ものの類ではなく、観客にどうか?と問う問題を投げかける思索映画であり、観た後に考察することが求められます。
本作のストーリーの重要なカギを握る積み木の「石」の意味をなぜ13個なのかも含めて、どうしてなのか、どういうことなのか、考えてみました。
君たちはどう生きるかの石の意味は?
本作は、火に始まり石・水・木・船・鉄・紙が登場し石に終わる、宮崎駿監督の描くアニメーションの主要アイテムを総投入した映画でした。
石に何らかの人知を超えた不思議で強力な力を見出すのは漫画版原作「風の谷のナウシカ」の最後に登場する「シュワの墓所」や「天空の城ラピュタ」の最初から登場する「飛行石」を彷彿とさせます。
火から物語が始まるところは「風の谷のナウシカ」の始まりの「火の七日間」を思い出しますね。
本作では何種類もの様々な石・岩が登場しますが、下の世界に降りた眞人が初めて大叔父に出会ったときに机の上にあった8個の石の積み木(積み木石①とします)、そしてその後、草原の上、力の源である浮かぶ岩の下で大叔父から示された新たな13個の石の積み木(積み木石②とします)が物語の重要なポイントになります。
下の世界とは一体何か?
端的に言ってしまうと、下の世界はスタジオジブリのことを言っているのだと思います。
大叔父はスタジオジブリのアニメーション映画作品を作ってきた高畑勲監督や宮崎駿監督自身を投影した存在だと思います。
下の世界の創造主という意味です。
インコ大王は鈴木敏夫さんで、下の世界の進化したインコたちは我々観客たちでしょうか。
積み木石①や積み木石②は両監督が作ってきたアニメーション映画作品のことを暗示しているのだと思います。
これらの映画作品で下の世界=スタジオジブリを作り上げてきた、という意味です。
大叔父からの下の世界を受け継いでくれる後継者となる依頼を眞人は断ってしまいますが、それは現実に宮崎駿監督の後を継ぐ者がいないことを示しているのでしょう。
積み木の石の意味は?
物語では、積み木石①のバランスをかろうじて調整して保てたことで大叔父=高畑勲監督は眞人に「この世界はこれであと一日は持つだろう」と述べています。
積み木石①=高畑勲監督の映画作品ではスタジオジブリの運営が綱渡りの状態だったことを暗示しているようでもあります。
積み木石①の均衡を守る役割の継承を「悪意のある石には触れない」として眞人から断られた大叔父は再度積み木石②を今度は「悪意のない石」として眞人に提示しますが、眞人から「自分には悪意がある」として再度断られてしまいます。
その結果、憤慨したインコ大王=鈴木敏夫さんがサーベルで積み木石②が真っ二つに切り裂き、それを端緒として、海が2つに割れ下の世界はぼろぼろに崩れ落ち、崩壊してしまいます。
スタジオジブリが積み木石②=宮崎駿監督の映画作品を以てしても財務運営上自社単独では生き残れなかったことを指しているかのようです。
物語では同時に、大叔父の暮らした時代である「維新」の世界が世界大戦で滅びたことを暗示しているようでもあります。
「石」=「意思」
この石たちには、「意思」という意味が込められているのだと解釈できると思います。
石の積み木を組み立たてる者=下の世界の創造主=高畑勲監督・宮崎駿監督、の「意思」が示される「石」なのだと思います。
上の世界=眞人たちがいた現実の世界が戦争で修羅の世界になることを案じた博識の大叔父が、悪意のない穏やかな世界を新たに創ろうとして、力の源である浮かぶ石群=人知を超えた創造主(恐らくは宮崎駿監督のイマジネーションの源となるエネルギー・クリエーター魂)と契約し、異世界から来た不思議な隕石のもと、下の世界をかたちづくったことになっています。
この積み木の石たちはそうした世界をかたちづくることのできる特別な力を持った存在ということです。
この石たちの積み具合の均衡が下の世界の存在を担保しているのだと想像します。
石は高畑勲監督や宮崎駿監督が作ってきたアニメーション映画作品のことで、下の世界はスタジオジブリのことです。
自分たちのアニメーション映画作品が切り開いてきたファンタジーの世界の暗喩でもあるのでしょう。
君たちはどう生きるかの石はなぜ13個なのか?
手のひらサイズの幾何学的な形態の石を幾つか積み上げたシーンは本作の重要なシーンのひとつです。
自然の形状ではなく、人の手が加えられ加工されて整形された石で、スタジオジブリで制作された映画作品を暗示しているものと想定されます。
眞人はその最初の積み木石①を「悪意」と呼んでいます。
積み木石①は高畑勲監督の、積み木石②は宮崎駿監督の長編アニメーション映画作品のことだと想定されます。
13は宮崎駿監督の長編アニメーション作品数
タイトル | 劇場公開日 | |
13 | 次回作? | 2033年7月? |
12 | 君たちはどう生きるか(オスカー賞) | 2023年7月14日(金) |
11 | 風立ちぬ | 2013年7月20日(土) |
10 | 崖の上のポニョ | 2008年7月19日(土) |
9 | ハウルの動く城 | 2004年11月20日(土) |
8 | 千と千尋の神隠し(オスカー賞) | 2001年7月20日(金) |
7 | もののけ姫 | 1997年7月12日(土) |
6 | 紅の豚 | 1992年7月18日(土) |
5 | 魔女の宅急便 | 1989年7月29日(土) |
4 | となりのトトロ | 1988年4月16日(土) |
3 | 天空の城ラピュタ | 1986年8月2日(土) |
2 | 風の谷のナウシカ | 1984年3月11日(日) |
1 | カリオストロの城 | 1979年12月15日(土) |
宮崎駿監督の長編アニメーション映画作品の一覧です。
「On Your Mark」(1995年)を加えるかどうか、議論があるかと思いますが、無声短編映画で単独興行作品ではないので本一覧からは割愛しています。
おなじく「コロの大さんぽ」(2002年)、「毛虫のボロ」(2018年)も短編映画で単独興行作品ではないので本一覧からは割愛しています。
そうなると13作品になるためにはあと1作品必要です。
「未来少年コナン」を入れるという見方もありますが、TVアニメなので、残念ですがこの中には入らないと思いました。
これはあと1作はつくる、ことを暗示しているのでしょうか?
仮に今回と同じやり方でつくるとして、10年かかるとすると宮崎駿監督は92歳になります。
90歳を超える巨匠監督は世界的には珍しくないので今後の新作も十分可能性はあると思います。
宮崎駿監督、期待しています!
8は高畑勲監督の長編アニメーション作品数
タイトル | 劇場公開日 | |
8 | かぐや姫の物語 | 2013年11月23日 |
7 | ホーホケキョ となりの山田くん | 1999年7月17日 |
6 | 平成狸合戦ぽんぽこ | 1994年7月16日 |
5 | おもひでぽろぽろ | 1991年7月20日 |
4 | 火垂るの墓 | 1988年 4月16日 |
3 | セロ弾きのゴーシュ | 1982年1月23日 |
2 | じゃりン子チエ | 1981年4月11日 |
1 | 太陽の王子 ホルスの大冒険 | 1968年7月21日 |
高畑勲監督の長編アニメーション映画作品の一覧です。
高畑勲監督は惜しくも2018年4月5日に逝去されました。
君たちはどう生きるかの石の意味は?なぜ13個なのか?まとめ
宮崎駿監督の10年ぶりとなる長編アニメーション映画「君たちはどう生きるか」に登場するアイテムのうち、「石」の意味について、なぜ13個なのかなども含めて考察し記事にしました。
40年来の宮崎駿監督の漫画・アニメファンとしては理解・推論の及ぶシーンも多々ありましたが、考察する必要のある場面も数多く、考えてはまた観る、を繰り返したい作品でもあります。
そういった意味では地上波放送が待ち遠しい作品です。
家のテレビで「君たちはどう生きるか」の気になるシーンを繰り返し何度も観たいところです。
13個の石の意味以外にも全体を通じて観る者に問うていることや、登場人物の考察など語り出したら止まらない作品でした。
石の数がなぜ8個、13個なのかなど、宮崎駿監督に張り巡らされた伏線ありまくりの記念碑的映画です。
そして、現在83歳の宮崎駿監督の次回作を匂わす、大変気になる終わり方でもありました。
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