※ネタバレを含みますのでご注意ください。
映画パーフェクトデイズ「PERFECT DAYS」は役所広司の圧巻の演技に2時間目が釘付けになってしまいましたが、主人公の平山がラストシーンで流す涙の理由は何なのでしょうか?
そもそも映画自体は面白いのでしょうか、つまらないのでしょうか、どちらなのでしょうか?
巨匠ヴィム・ベンダース監督による第76回カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞したこの映画は世界的にとても高い評価を獲得していますが、見る人によって評価がまるで異なると思います。
寡黙な初老のトイレ清掃員の毎日を淡々と描いたものですが、一見代わり映えのない毎日の繰り返しのようでいて、実は微妙に異なるものであったり、予期せぬ出来事が起きたりします。
主人公の平山にとっては毎日がパーフェクトデイズなのです。
ラストで涙を流すことも起きるのです。
ここではその涙の理由や、映画そのものは面白いのかつまらないのか考察してみました。
パーフェクトデイズのラストの涙の理由は?
主人公の平山はラストシーンで渋谷に仕事で向かう車の中で朝陽を浴びながら泣いたり笑ったりします。
いろいろな出来事が立て続けに起こり、さまざまな感情が去来しているからなのでしょう。
ラストの場面で車中で流れる「FEELING GOOD」が感情を昂らせている
このシーンを理解するには車中で流れている音楽がヒントになるかもしれません。
主人公の平山がカセットテープでかけた音楽はニーナシモンの「FEELING GOOD」です。
出だしはこのような歌です。
<略>
Yeah, it’s a new dawn, it’s a new day, it’s a new life for me, ooooooooh
And I’m feelin’ good
まるで平山の生活を讃えたかのような歌です。
曲のメロディーに昂じて思わず涙が出てしまったのでしょう。
毎日文庫本の小説を愛読する平山はかなりの知性の持ち主だと想像できます。
名著ですが難解とされるウィリアム・フォークナーの「野生の棕櫚」を読んでいるくらいです。
過去に起きた何らかのよんどころのない事情により知性にふさわしい仕事ではなく、誰もが好んで引き受けるとは思えない公衆トイレの清掃員に身をやつしているのでしょう。
それを自分なりに道具にも工夫して細部にまで拘って毎日完璧にこなし、銭湯で汗を流して居酒屋でささやかながら晩酌を楽しむような穏やかな毎日のルーチンを実現できているのです。
まさに完璧=Perfectな毎日=Daysです。
恐らく音楽を聴きながら英語の歌詞の意味も理解して楽しんでいるのだと思います。
It’s a new dawn, it’s a new day, it’s a new life for me
なのです。
いろいろな出来事があり、昨日とは違う新しい一日がまた始まるのです。
それを讃えてくれる音楽に思わず泣いたり微笑んだりしてしまうのです。
地味で平穏な毎日を送る平山に起きたさざ波のような出来事
ここ数日、起きた出来事は地味で平穏な単調な毎日を送る平山にはあまりにもドラマチックなものばかりでした。
タカシにまつわるできごと
- 仕事仲間のタカシのバイクが故障しタカシが恋人アヤと過ごすため車を貸し3人でドライブする。
- タカシに連れられて訪ねた中古店でカセットテープを1本1万2千円で買うと言われる。
- タカシがアヤの店を訪ねてアタックするために財布の中の有り金を全部渡す。
- 車がガス欠になり手持ちの金が無かったためカセットテープを売って凌いだ。
- タカシの恋人にいきなりキスをされる。
- タカシが突然仕事を辞めてしまい彼のシフト分まで仕事をしなければならなかった。
- タカシのダウン症の友人に会う。
- 辞めたタカシの代わりに今度は仕事に手慣れた様子の若い女性が相棒として現れる。
仕事でのできごと
- 仕事場である公衆トイレの壁の隙間に差し込まれていた小さなメモで見知らぬ誰かと〇×並べをやりとりしThank youと書かれる。
- 仕事中の昼休みに趣味の木漏れ日撮影をしている神社で、樹木の足元に新しく芽吹いた苗を見つけ許可を得てもらって帰ってきて部屋に移植する。
- 仕事場のトイレで迷子になった男の子の相手をし母親が見つかるが手をシートで拭われる。
久しく会っていなかった肉親にまつわるできごと
- 随分長い間会っていなかった姪のニコが家出し突然転がり込んできて寝泊まりする。
- ニコといつか今度、海に行く話をする。
- 久しく会っていなかった妹のケイコが初めて家を訪ねてきて老いた父のことを話す。
行きつけの店のママにまつわるできごと
- 行きつけのスナックのママを訪ねてきた元夫との一抹を見てしまったがその後彼と会話をし影踏みをした。
- 元夫はがんに侵されていてママのことをよろしく頼むと言われる。
その他の出来事
- 晩酌をする居酒屋がある日盛況で満員になっていて店主がてんてこ舞いだった。
- 自転車で訪問した先の建物がなくなり更地になっていた。
- 挨拶を交わす間柄のホームレスアーティストが路上でパフォーマンスをしているのを見かける。
ニコとのことやママとのこれからのことを想うと思わず笑みが浮かんでしまうが、過去に確執のあったと思われる父親や面倒を見てくれている妹のケイコのことを想うと泣けてきてしまう。
「FEELING GOOD」から流れてくるフレーズに首都高速を走る車の中で朝陽を浴びながら思わず感情が高ぶってしまうのです。
音楽は時に人の心を大きく動かす力があります。
この映画では音楽がとても重要な役割を果たしており、ラストシーンはそれを象徴しているかのようです。
パーフェクトデイズは面白い・つまらない、どっち?
この映画は仕事で成功して生活に余裕があり人生を謳歌している人には面白みがないかもしれません。
この映画では、お金が無くても、地位が無くても、社会の底辺の仕事でも、誇りとこだわりを持って自分の役割を完璧にこなしている主人公の日常の様子が描かれます。
そうして平穏な毎日を送れていれば、これほど充実した人生もない、という生活が描かれています。
ここに共感を持てる人にとっては心に突き刺さる映画になることでしょう。
この映画のサブタイトルは「こんなふうに生きていけたなら」です。
私はとても強く感心させられるところが多々あり興味深く観ることができましたが、泣くまでには至りませんでした。
パーフェクトデイズのラストの涙の理由は?面白い・つまらない?まとめ
ヴィム・ベンダーズ監督、役所広司主演のパーフェクトデイズのラストの涙の理由についてまとめてみました。
併せてそもそもこの映画が面白いのか、つまらないのか、考察してみました。
平山の仕事ぶりや趣味を見て、こいつ完璧じゃないか、と思わず感じてしまいました。
樹木の奏でる木漏れ日を愛してやまないことも、日本人でもそこまでの境地にはなかなかたどり着けるものじゃないと思います。
主人公平山のストイックな生き方に感心してしまいました。
自分にはとても真似できないパーフェクトデイズです。
ラストの涙の理由も観た人それぞれの思うところで違うかもしれませんし、面白いのかつまらないのかも同様でしょう。
ただ、外国人の巨匠映画監督の手にかかり役所広司が演じるとこんなとてつもない映画ができてしまうのか、という驚きを感じさせられました。
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